地主の秋山は嘆息して、「わしの不徳だが」と言ひ添へた。
 お可哀想な御主人さま、農村の美風をどうして昔に取り返さうかと悲しんで居なさると思ふと、秋山の番頭みたいに、米の検見や小作米の取立てを勤めてゐる山口は一つどうしても智慧袋をしぼらねばならぬ破目だつた。
 で、山口は好いことを考へついた。
「小作人共には、酒を飲ませちやるに限りますわい」
「ふむ。費用はどの位ぢやらう」
「まア張り込みなされ。若旦那の婚礼が宜しうござりましよ。早う嫁ごを捜して、この農閑期のうちに、盛大な式をあげなされ、その時、うんと飲ませちやつて、荒つぽい奴らの気持を柔らげちやりなされ」
「うん、よし、嫁を早う捜せ」

 俺は、俺を呼び止めたのが甲吉だと知ると、思い切り詰らなそうな顔をして見せた。「お前えと一緒に歩くのは厭だよ」と云わぬばかりに。
「みんなは若けえからストライキだって元気でやれるんだ。だが俺は――」
「もう好いよ。愚痴は云うな、甲吉」
「お前えまで、俺を……職場から出て行けがしにする」としおしおしてやがる。
「どう致しまして。お前えの首を馘るなア、資本家の役目さ」と俺は云ってやった。
 三カ月たった。或日――
「甲吉の野郎がやられた!」という叫びが工場中に鳴り渡った。あの、誰かが機械にやられた時、俺らの胸がドンと突く、妙に底鳴りのする叫び声だ。
 俺は走って行った。人だかりを押しわけて俺は見た、甲吉の野郎、何て青い顔だ、そして血だ。片手をやられて倒れている。

だから、人間の恐しい方の心には限りがないとはいふものゝ、窮極は限られて了ふ傾きを本來持つて居る。センティメンタリズムを非常に恐れ排斥する餘り、どんな恐しい人生にでもめげたり、感じ傷んだりしないで見ると云ふやうな、冷酷な、殘忍な方面の心を尊いものだと考へ過ぎて、同じく人間の本性にあるところの、自然な美しい性情を讃美する心持まで押へ付けて了ふやうなことがあれば、それこそ却つて別な方面に現はれたセンティメンタリズムである。一種の臆病からして、本當に廣く深く人間の本性を見る態度の缺乏に基づく誤謬である。

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